映画【空飛ぶタイヤ】評

半沢直樹】や【陸王】など大ヒットドラマの作者池井戸潤原作の【空飛ぶタイヤ】。

 

リコール隠し三菱自動車をモデルとした今作。さすがは【半沢直樹】や【陸王】など大ヒットを連発してきた池井戸潤原作、今作も観客がはまりやすいツボをそつなく抑えている作品である。

 

大企業の闇・弱小零細企業の一発逆転物語など、リアリティとドラマティックの境目の絶妙さ。今作【空飛ぶタイヤ】では大企業というよりも、大財閥系企業対弱小零細企業という図式だろうか。

 

キャストに主演長瀬智也

ディーンフジオカ・高橋一生ムロツヨシ深田恭子と言った中堅の俳優陣。岸部一徳柄本明笹野高史といった大御所。さらに寺脇康文佐々木蔵之介浅利陽介・六角精児・升毅田口浩正といった名バイプレイヤーが脇を固める。

昨今のテレビドラマでは見ることができない主演クラスの豪華共演陣は映画ならではか、それともヒット間違いなしと思われる池井戸潤原作であるからか。

 

大財閥系企業対弱小零細企業という図式を、ディーンフジオカと長瀬智也が好演。

ディーンフジオカの俳優としての落ち着いたイメージが大財閥系企業のイメージと抜群にフィットし、長瀬智也の荒々しさ(衣装であったり言葉遣いであったり)がいかにも零細企業といった庶民風で、一見して女性風でもあるディーンフジオカと、男臭い長瀬智也との対比が面白い。

 

一企業戦士としての苦悩を、一経営者としての苦悩を、やりきれなさ、資本主義の中の原則、被害者でもあり加害者ともなってしまった現実、自分たちに落ち度はないのに巨大な企業の前では零細企業は何とも無力なことか・・・一番の被害者でもある遺族との板挟み等々

こういったつもりに積もった鬱憤が、最後の最後での大逆転となることで観客はすっきりとする。何が正義か、本当の敵は何か、 敵と戦うことが解決策か。

 

登場シーンはさほど多くはないが高橋一生という役者。これほどに男の色気というのを感じずにはいられない。じっと見つめる目線、艶のある声、不思議な間のある存在感、ことごとく男の僕でさえ色気を感じてしまう。これをフェロモンとでもいうのだろうか・・・無論同性である僕がフェロモンを感じることはないのだが。

 

同じく艶のある声といえば大御所・岸部一徳

艶のある濡れた声が高橋一生とは違い色気を感ずることはなく、むしろ妖しさを感ぜずにはいられない。過去、敵や味方問わず多彩な役柄をこなしているが、その妖しい声質から今回のような悪役のほうが適役だと思う。

財閥系企業のトップのむごたらしい役回りをいとも自然に、当たり前のようにこなしているのはさすがは怪優であろう。

 

僕にとってどうしても寺脇康文という役者は刑事役というイメージしかない。僕が寺脇康文という役者を初めて知った【刑事貴族2】での藤村刑事役。水谷豊演じる本城刑事のバディというイメージ。

さらに今も続いているシリーズ【相棒】での水谷豊演じる杉下右京の初代相棒、熱血感あふれる亀山薫刑事役だ。

 

今作【空飛ぶタイヤ】でも癖のある昔ながらの高幡真治刑事役で、二度の家宅捜索でのセリフの場面が印象に残った。



二度とも全く同じセリフ で、

「(悪い企業の)皆さん(家宅捜索先)の迷惑にならないようにね」(正確ではないがこんなふうな意味のセリフ)と嫌味に取れる台詞。

 

これを赤松運送で家宅捜索に入る部下たちに言う。

この時点ではどうしても主人公・長瀬智也扮する赤松運送側に肩入れしているから、

赤松運送に落ち度はないとわかっているから観客は「この刑事むかつく」とか心理的に良いイメージにはならない。

 

ところが終盤、財閥系企業・ホープ自動車に家宅捜索に入る場面で全く同じセリフを言う高幡刑事。 物語としては終盤の一発逆転シーンへの布石になる重要な場面。

観客の心理は、最後は弱い者が勝つというストーリーに向かってすっきりと気持ち良いエンディングへの期待値が高まっている。嫌味よりも、「高幡刑事さんよくやってくれた!」とまさに手の平返したような評価だ。全く人間の心理というものは摩訶不思議と言うしかない。



最後に総括。

古い財閥系企業の隠蔽体質。弱者を切り捨てるかのような態度。掴みかけていた逆転への布石がまさかの流産。

それでもギリギリのギリギリで起死回生。実話をもとにした原作でも実際にここまでドラマティックだったとは思えないが、それでも最後は気持ちよく見終えることができる作品だ。



空飛ぶタイヤ

原作:池井戸潤

監督:本木克英

脚本:林民夫